2010年4月22日木曜日

いかすぜ、この恋



いかすぜ、この恋

ブリトニー・スピアーズの初主演映画「ノット・アーガール」が世界中で話題になっていた。
「批評家達が言いたいことを言うということは分かっていたわ。でも正直言って批評家が誉めるものなんて、私、一切好きじゃないし、批評家がけなすものは 私、大好きだから。私のファンがこの映画を観に行った時、感動するっていうことが私の意図なの。」悔しさを呑込んだ発言が、ちょっと痛い。20才の負けん 気が微笑ましい。
共演者のアンソン・マウントはロバート・デ・ニーロに相談をした。『ノット・アーガール』は、ちょっとくだらなくて、いかにも興行的な映画なんですよ”って相談したら、”だから何?”って言われて吹っ切れたんだ。」と語る。その後、デ・ニーロがブリトニーのセリフを読んで相手をしてくれたという話は ほほえましい。

「ノット・アーガール」はブリトニーのファン以外には無用の長物?なのだろう。しかしブリトニーのファンだけでしっかりビジネスになってしまうのも「偉 大」なのだ。世界中の女の子にとってファッション・リーダーであり、生きる手本。たばこも酒も飲まないという清潔感ゆえに、たばこを手にしている写真がゴ シップとなって世界を走る。

エルヴィスの世界とオーバーラップする「スターならこその世界」。

ベトナム戦争をくぐり抜けて、いつからか、ロックシーンに於いては、スターであることがカッコ悪いことに変わった。
ジャック・ケルアックの『路上』が世に出て、脚光を浴びたのも、裁判にまでなった「吠える」が脚光を浴びたのも、エルヴィスが生理的ともいえるスピード感 で世界を変えた56年を境にしてのこと。エルヴィスは直接”ビート・ジェネレーション”イギリスのアラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』に代表され る”怒れる若者たち”とは関係なかったが、ロックンロールを旗印に第二次世界大戦、朝鮮戦争の憂鬱な壁を打ち破ることで若者文化を引率した。日本では戦後 と訣別するかのように、石原裕次郎や小林旭など不良っぽいスターが登場し支持された。

アメリカの時の流れは早く、勝利した戦後は終わり、新しい戦争の真只中に若者を引きずり込んだ。ビートはヒッピーに変わり、陽気なポップ・カルチャーは、 陰影を含んだイギリス勢に席を譲った。ロック世代の台頭と映像表現。M-G-Mに代表される華麗なミュージカルは衰退し、全盛を誇った日活アクション映画 は、会社の存続すらままならず「ロマンポルノ」という看板を掲げて、泥にまみれながらも名門の灯を守ろうとした。

『Ticle Me』は、いわばこういう背景を凝縮したような映画だった。この作品では、全曲過去にリリースされた映画用でない楽曲が揃えられた。
『いかすぜ!この恋』と名付けられた日本タイトルの、”いかすぜ!”は石原裕次 郎のキャッチフレーズだが、すでに日本においても”いかすぜ”は過去になっていた。
エルヴィスの歌にもっともふさわしい「反逆児」作品を通過して、繁栄を誇るアメ リカにふさわしい、アメリカならではのスーパースター娯楽ムービーを通過して、エルヴィス映画は曲り角にぶちあたった。

時代がすでにスターであることがカッコ悪いことに変わっていても、エルヴィスが 巨大なスターである事実を、一体誰がどう変えることができただろうか。歌を見せるための装置だったエルヴィス映画は、エルヴィスの映画への野心を打ち砕き ながらも、通過したはずの過去に向かう以外に進路を見出せなかった。
この映画こそエルヴィス映画の終点だったと言えるのではないだろうか。

「私のファンがこの映画を観に行った時、感動するっていうことが私の意図なの。」とブリトニーが語るように、エルヴィスはカッコよく、怪談コメディーという肩のこらない仕掛けも、ただただエルヴィスを楽しむための映画だった。
洗練された男盛りを迎えていたエルヴィスをどう活かすか、ハリウッドは、この作品の後、『ハレム万才』『フランキー&ジョニー』とコスチューム・ムービー で新境地を開こうとした。大プロデューサーハル・ウォリスは無難な『ハワイアン・パラダイス』を選んだ。まだエルヴィス映画は呼吸していたが、不機嫌な時 代はすでにエルヴィス映画の限界突破を許すほど大らかではなかった。ついにハリウッドは、回答を出せないまま、『ラスベガス万才』のコピーに甘んじた。

『Ticle Me』は、監督はノーマン・タウログだが、エルヴィスにとってはコロンビア映画という異色。どういうわけか、この『いかすぜ!この恋』や『カリフォルニア万才』『ブルー・マイアミ』『スピードウェイ』『バギー万才』、戻って『キッスン・カズン』 『フロリダ万才』はTV放送されない。

『いかすぜ!この恋』のもうひとつの魅力は相手役のジョスリン・レイン。エルヴィスの相手役としてはベスト5に入るのでは?と女性ファンに尋ねたら一撃のもとに否定された。

この胸の中へおいで
お前の居場所はここだから
いかすぜ、この恋
これが間違っているもんか

お前のキスには何かある
強く抱きしめたくなるような何かが
間違っていることなど何もない
こんなにいかした恋だから

触れ合うたびに
ドキドキするぜ
かけがえのないお前を
放したりするもんか

*今夜限りなんかじゃない
これから一生、愛し合う
こんなにいかした恋
だからベイビー、間違っているはずがない

*リピート

さて、肝心の<いかすぜ!この恋>、映画のタイトルにもなったこの曲、本国ではB面扱いだったが、日本ではA面として扱われた。原題は<IIT FEEL SO RIGHT>、なかなかうまい素敵な日本タイトルがついたものだと感心する。
もともとは『ELVIS IS BACK!』に収録されていたブルージーな作品。65年にシングル・リリースされた<テル・ミー・ホワイ>も同系統の感じだが、<テル・ミー・ホワイ>が 57年の録音だったことを考えると、除隊後の録音である<いかすぜ!この恋>が、50年代のフィーリングをがっちり引き継いでいることを知らされる。

エルヴィスの高音を活かしたボーカルの魅力がうれしい傑作だ。ミステリアスなまでに高音が魅力的だった <CRAWFISH/ざりがに>や『ポットラック』に収録された<ステッピン・アウト・オブ・ライン>を作ったフレッド・ワイズ、ベン・ワイズマンの作品 と知れば共通点がしっかりあって納得。<ロカ・フラ・ベイビー>も彼等の作品だ。

全身を使い、腹と咽から絞り出すように歌う強引なラブソングの本気がすてきなエルヴィス。プレスリーはシンガーでありました。
このスタイルはいまも日本で健在。聴く人たちがそれを知っているかどうかはともかく。エルヴィス・プレスリーは数々の元祖でありました。

IT FEELS SO RIGHT

Step in these arms
Where you belong
It feels so right, so right
How can it be wrong

There's something in the way you kiss
That makes me want to hold you tight
l know that nothing can be wrong
That feels so right, oh yeah

Each time we touch
You thrill me so
It means so much so much
l can't let you go, oh yeah

*This Isn't only for tonight
We're gonna' Iove our whole life through
'Cos baby, if it feels so right How can it be wrong

* Repeat

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